以前、夏休みから中学3年生の受験クラスに入ったA君の話です。
(※ 個人が特定されないよう、話の一部を変えています。)
A君は、決して勉強が嫌いな子ではありませんでした。ただ、勉強を始める前に、こんなことをよく聞いていました。
「先生、これ、全部やる必要あります?」
宿題を出せば、「学校でも宿題が出ているんですけど」。補習を勧めれば、「そこまでやらなくても、大丈夫じゃないですか」。
やりたくないというより、必要なところまでやったら終わり。それがA君にとっての普通だったのだと思います。
受験クラスには、授業が終わってからも残って勉強する子が何人かいました。
「先生、この問題だけ聞いていいですか」
「今日間違えたところ、もう一回やってから帰ります」
もちろん、いつも元気いっぱいだったわけではありません。「疲れた」「今日は頭が動かない」と言いながら、それでも、もう一問だけ解いてから帰る。そんな子たちでした。
A君は最初、その様子を少し不思議そうに見ていました。
ある日、自分の課題を終えると、いつものように筆箱をしまって帰る準備を始めました。ところが、周りの子の多くはまだ問題を解いています。
A君は周りを見渡して、私に聞きました。
「先生、みんな、まだやるんですか?」
「うん。もう少しやるみたいだな」

少し考えた後、A君は言いました。
「じゃあ……俺も、もう一題やります」
控えめな「やる気宣言」でした。でも、私にはうれしい一言でした。
A君は筆箱を開き直し、ページをめくりました。

それから少しずつ、A君の言葉が変わっていきました。
「これ、全部やる必要あります?」
そう聞いていた子が、
「先生、次はどこをやればいいですか」
と聞くようになりました。授業後に残る子を見て、「じゃあ、俺も少し残る」と言う日も増えました。
誰かに長い説教をされたわけではありません。ある日突然、別人になったわけでもありません。
疲れたと言いながらも、もう一問解く。間違えたところを、もう一度やる。そういう仲間の姿を毎日見ているうちに、A君の中の「普通」が少しずつ変わったのだと思います。
私は、A君を変えたのは私だとは思っていません。あの日、A君の背中を押したのは、隣で鉛筆を動かしていた仲間たちでした。
一人の「もう少しやろう」が、隣の子を動かす。その子の姿が、また別の子を動かす。
教室の空気は、先生一人でつくるものではありません。そこで過ごす子どもたち一人ひとりが、少しずつつくっていくものです。
頑張る仲間がいる。頑張ることを笑わない仲間がいる。「もう少しやってみよう」と思える空気がある。
合格屋マックスも、そんな教室であり続けたいと思います。
そして私も、筆箱を開き直したあの日のA君のような、小さくても大切な一歩を見逃さず、一緒に喜べる先生でありたいと思います。

