こんにちは。合格屋マックスの山口です。
子どもが変わる瞬間は、必ずしも劇的なものではありません。
急にやる気に満ちあふれたり、次の日から別人のように勉強したりするわけではありません。
最初は、小さな一問が解けただけ。
けれど、その一問が、
「もしかしたら、自分にもできるかもしれない」
という気持ちを生み、次の一歩につながることがあります。
今回は、そんな小さな「できた」を積み重ねて、志望校合格をつかんだ佐藤君(仮名)のお話です。
佐藤君が教室に来たのは、中学2年生のときでした。
特に苦手だったのは数学です。
計算問題でも途中で手が止まり、関数や証明問題になると、問題を読んだだけで、
「これは無理です」
と言ってしまうことがよくありました。
わからないから嫌になる。
嫌になるから、ますます手をつけなくなる。
手をつけないから、さらにわからなくなる。
すっかり、この悪循環の中に入っていました。
最初の授業で、基礎的な計算の確認テストをしました。
結果は、本人が思っていた以上に厳しいものでした。
答案を見た佐藤君は、何も言いませんでした。
ただ、いつもより小さな字で直しを書き、下を向いたまま帰っていきました。
後からお母さんに聞いた話では、帰宅してから、
「どうして、こんなにできないんだろう」
「もう勉強をやめたい」
と涙を見せたそうです。
そのとき、お母さんはこう伝えました。
「今できないから、できるようになるために通い始めたんでしょう。何度でもやってみればいいよ。お母さんも応援するから」
次の授業に来た佐藤君に、私は言いました。
「いきなり数学が得意になる必要はない。まず、昨日できなかった一問を、今日はできるようにしよう」
そして、一つだけ約束をしました。
毎日30分だけ、数学の「わからなかった問題」に取り組むこと。
ノートにその日の目標を書き、解けるようになったら、赤いペンで大きな○をつけること。
それだけです。
最初のうちは、○よりも直しの方が多かったと思います。
それでも、佐藤君は続けました。
一日一問しか進まない日もありました。
同じ問題を、次の日にもう一度解き直すこともありました。
それでも、ノートの中の○は、少しずつ増えていきました。
ある日、佐藤君のノートを見ると、前よりもずっと多くの○が並んでいました。
「ずいぶん増えたな」
私がそう言うと、佐藤君は少し照れたように笑いました。
「この○は、前にできなかった問題を、自分の力でできるようにした証拠だ。続けていけば、必ず変わるよ」
佐藤君の様子が少しずつ変わりました。
問題を見て、すぐに「無理です」と言わなくなりました。
まず自分で式を書いてみる。
わからなければ、どこまでわかったのかを確認する。
間違えたら、もう一度やり直す。
以前なら問題を見ただけで諦めていた佐藤君が、すぐには投げ出さなくなったのです。
もちろん、成績は一直線には上がりませんでした。
勉強を続けているのに、模試の点数がほとんど変わらない時期もありました。
「あんなにやったのに、全然上がりません」
落ち込む佐藤君に、私は言いました。
「努力は、最初から点数に表れるとは限らない。まず、前にできなかった問題ができるようになる。次に、できる問題が少しずつ増える。その積み重ねが、あとから点数になるんだ」
模試の点数だけを見るのではなく、
「前回できなかった問題を、今回は解けたか」
を一緒に確認するようにしました。
すると、点数が大きく変わらないときでも、
「この問題は、前ならできませんでした」
と、自分の成長を見つけられるようになりました。
小さな変化を自分で見つけられるようになると、簡単には諦めなくなります。
その後、数学は少しずつ、佐藤君の足を引っ張る科目ではなくなっていきました。
模試でも安定して点数を取れるようになり、気がつけば、最初に「無理です」と言っていた関数や証明問題にも、自分から取り組むようになっていました。
中3の秋ごろです。
授業が始まる前、佐藤君が教室の後ろで、同じ教室の友達と話していました。
その友達は、問題集をめくりながら言いました。
「毎日数学をやっているのに、全然点数が上がらない。もう無理かもしれない」
佐藤君は、その問題集を少し見てから聞きました。
「これ、できる問題ばかりやってない? 間違えた問題は、答えを写して終わりにしてるだろ」
友達は、少し困った顔をしました。
「だって、わからない問題は考えてもわからないじゃん」
すると、佐藤君は言いました。
「それ、前の俺と同じだよ」
そして、友達の問題集を指さしながら続けました。
「問題はたくさん解いているから、頑張っているようには見える。でも、できない問題を避けて、できる問題ばかり解くのって、すごく損だぞ」
友達は黙って、佐藤君の話を聞いていました。
「一日一問でもいいから、昨日できなかった問題を、今日はできるようにした方がいい。すぐに点数は上がらなくても、続けていれば、ちゃんと変わるから」
それは以前、私が佐藤君に伝えた言葉でした。
かつて、問題を見ただけで「自分には無理です」と言っていた佐藤君が、今は、昔の自分と同じところで立ち止まっている友達に、自分の経験を伝えていました。
私は少し離れたところで、採点をしながらその会話を聞いていました。
聞こえないふりをしながら、内心、ひそかにほくそ笑んでいました。

