〜“わからない”と言えるようになるまで〜
家でお子さんの勉強を見ているとき、こんなことはありませんか。
「ここ、わかってるの?」
そう聞くと、
「わかってる!」
「うるさいな!」
「今やろうとしてた!」
と、不機嫌そうに返ってくる。
でも、実際に解かせてみると、手が止まっている。
ノートを見ると、途中式がずれている。
もう一度聞くと、さらに機嫌が悪くなる。
親御さんからすれば、
「わかっていないなら、どうして素直に聞かないの」
「強がらないで、ちゃんと言ってくれればいいのに」
と思ってしまうこともあると思います。
そのお気持ちは、とてもよくわかります。
でも、子どもが強がるのは、親御さんを困らせたいからではありません。
「できない自分を見せるのが恥ずかしい」
「図星を指されるのが怖い」
「本当はわかっていないと知られたくない」
そういう不安とプライドが、先に出てしまっているのだと思います。
弱さを認めるのが怖いから、必死に「わかっているふり」をする。
本当は問題を解くことに使いたいエネルギーを、
「わからない自分をごまかすこと」
「できないところを隠すこと」
に使ってしまっている状態です。
そんなとき、無理に
「本当はわかってないんでしょ」
と追い詰めなくても大丈夫です。
図星を指して鎧をはがすより、子どもが少しだけ
「わからない」
「ここが怪しい」
「もう一回聞いてもいいかな」
と言いやすくなるように、ハードルを下げてあげることが大切です。
たとえば、
「ここ、お母さんも昔苦手だったな」
「これは大人でもややこしいところだよね」
「一回でできなくても普通だよ」
「ここだけ一緒に確認してみようか」
そんな言葉で、少し逃げ道を作ってあげる。
すると、子どもは少しずつ本来のエネルギーの使い方を取り戻していきます。
実は、教室でもまったく同じような場面によく出会います。
今日は、ある男の子のお話をさせてください。
もちろん、名前は変えてあります。
「わかってます」とすぐに答える子
ここでは仮に、鈴木くんと呼ぶことにします。
鈴木くんは、授業中に私が
「ここ、わかる?」
と聞くと、いつも少し早口で
「はい、わかります」
と答える子でした。
返事はとてもいいのです。
でも、いざ問題を解かせると、手がピタッと止まります。
鉛筆は持っている。
ノートも開いている。
でも、式がなかなか進まない。
こちらが少し近づくと、あわてて何かを書き始める。
でも、ノートを見ると、途中式が全然違う方向へ進んでいることもありました。
「あれ、ここはどうしてこうなったの?」
と聞くと、鈴木くんの表情が少しこわばります。
目線が下がる。
消しゴムをいじる。
少し口をとがらせる。
そして、小さな声で
「いや、わかってます」
と言う。
こういう場面は、教室では決して珍しくありません。
こういうタイプの子に教えるとき、一番難しいのは問題そのものではありません。
本当に難しいのは、
「できない自分を見せたくない」という心の壁
です。
鈴木くんも、弱さを指摘されることをとても怖がっているように見えました。
だから、難しい問題から逃げているというより、
「わかっていないと思われること」から逃げていたのだと思います。
「わかってないでしょ」とは言わない
そこで、私は声のかけ方を変えました。
鈴木くんが
「はい、わかります」
と言ったときに、
「じゃあ、解いてみて」
とすぐに突き放さないようにしました。
もちろん、自分で解くことは大切です。
でも、その前に、鈴木くんが必要以上に身構えなくてもいい空気を作ることにしました。
たとえば、こんなふうに声をかけました。
「オッケー。ここ、みんなもよく間違えるところなんだよね。念のため、一緒に一回だけ確認しようか」
「ここはできてる。次のマイナスのところだけ、ちょっと注意しよう」
「先生もここは一回ゆっくり見たいところなんだよね」
「全部じゃなくていいよ。この一行だけ一緒に見よう」
大事にしたのは、鈴木くんに
「わかっていない」
を正面から突き付けないことでした。
もちろん、本当はわかっていないところがあります。
でも、それを無理やり認めさせようとすると、鈴木くんはますます固くなってしまいます。
だから、
「わかっていないだろ」
と暴くのではなく、
「ここは誰でも間違えるところだから、一緒に確認しよう」
という形にしました。
弱さを責めるのではなく、弱さを直せる場所まで一緒に下りていく。
そんなイメージです。
すると、少しずつ鈴木くんの表情が変わっていきました。
最初は、こちらが近づくだけで少し身構えていました。
でも、何度かやり取りを重ねるうちに、ノートを隠すような動きが減りました。
消しゴムをいじる時間も減りました。
こちらの説明を聞くときに、少しだけ顔が上がるようになりました。
大きな変化ではありません。
でも、教えている側からすると、はっきりわかる変化でした。
エネルギーを使う場所が、
「自分を守ること」から、
「問題を考えること」へ、
少しずつ移っていったのです。
「ちょっと怪しいです」と言えた日
ある日の授業でのことです。
その日も、いつものように問題を解いていました。
途中で、符号が少しややこしいところが出てきました。
私は、いつものように聞きました。
「ここ、どう?」
以前の鈴木くんなら、すぐに
「わかります」
と答えていたと思います。
でも、その日は少し違いました。
鈴木くんは、すぐには返事をしませんでした。
手元の消しゴムを少し触って、ノートを見て、少しだけ黙りました。
そして、小さな声で言いました。
「……先生、ここ、ちょっと怪しいです」
私は、心の中で小さくガッツポーズをしました。
点数が上がった瞬間ではありません。
難問が解けた瞬間でもありません。
でも、私にはとても大きな一歩に見えました。
「お、どこが怪しい?」
と聞くと、鈴木くんはノートの一部分を指さしました。
「この、マイナスをつけるところが……」
「そこ、一番ややこしいところなんだよ。よく聞いた。
そこを聞く人は、本当にわかりかけた人なんだよね」。よいし、一緒にやろう」
「はい」
そのときの鈴木くんの顔は、以前とは少し違っていました。
「隠さなきゃ」
「ごまかさなきゃ」
という焦りが、少し抜けていました。
肩の力が少し抜けて、ちゃんと問題の方を向いていました。
私は、この
「ちょっと怪しいです」
「心配です」
「ヤバいです」
という一言が、鈴木くんにとって本当に大きな進歩だったと思っています。
「わからない」と言える子は伸びます
勉強で大切なのは、最初から全部わかることではありません。
わからないところに気づけること。
そこを隠さずに出せること。
そして、直すところまで戻れること。
これができる子は、伸びていきます。
反対に、わからないところを隠してしまうと、「そのまま」、進歩なしです。
本人も、本当は苦しいはずです。
「わかってます」と言いながら、心の中では
「本当はちょっとわからない」
「でも、今さら聞けない」
「できないと思われたくない」
と思っていることがあります。
だからこそ、教室では
「わからない」と言っても大丈夫。
「ちょっと怪しい」と言っても大丈夫。
途中で止まっても大丈夫。
そう思える空気を大切にしています。
もちろん、甘やかすという意味ではありません。
わからないところは、きちんと直します。
できるまで練習もします。
ごまかしたままにはしません。
でも、最初の入り口で責めてしまうと、子どもは心を閉じてしまいます。
まずは出せるようにする。
出てきたものを一緒に直す。
できたところを認める。
その順番が大切だと思っています。
ご家庭では、こう声をかけてみてください
家でお子さんが
「わかってる!」
と強く言ったとき、すぐに言い返したくなることもあると思います。
「じゃあ解いてみなさい」
「本当はわかってないんでしょ」
「どうして素直に聞かないの」
そう言いたくなるお気持ちは、本当によくわかります。
でも、そんなときは少しだけ言い方を変えてみてください。
「全部じゃなくていいから、怪しいところだけ教えて」
「ここ、ちょっとややこしいところだよね」
「一回でできなくても大丈夫だよ」
「わからないって言ってくれた方が、直しやすいよ」
「ここまでできてるから、あと一つだけ確認しよう」
このような声かけは、子どもが弱さを出すハードルを少し下げてくれます。
特におすすめなのは、
「どこが怪しい?」
という聞き方です。
「わかる? わからない?」
と聞くと、子どもはつい
「わかる」
と言いたくなります。
でも、
「どこが怪しい?」
と聞くと、少し答えやすくなります。
完全にわからないわけではない。
でも、ちょっと不安なところがある。
そのくらいの言い方なら、子どもも出しやすいのです。
最後に
子どもが強がるとき、その奥には、不安や恥ずかしさが隠れていることがあります。
「わかってます」
という言葉の裏に、
「できないと思われたくない」
「怒られたくない」
「本当は少し不安」
という気持ちがあることもあります。
その気持ちを少しほどいてあげると、子どもはようやく問題に向かえるようになります。
鈴木くんが
「ちょっと怪しいです」
と言えた日のことを、私は今でもよく覚えています。
小さな一言でした。
でも、その一言から、勉強への向き合い方が少しずつ変わっていきました。
Maxでは、ただ答えを教えるだけではなく、子どもが安心して
「わからない」
「ここが怪しい」
「もう一回やりたい」
と言える空気を大切にしています。
そこから、本当の意味での勉強が始まると思っているからです。
お子さんが強がっているように見えるときも、
その奥にある気持ちを少しだけ見てあげる。
そして、
「大丈夫。ここから一緒に直せばいいよ」
と言える場所でありたいと思っています。

